一年間の現場運用で
医師から高く評価
JUS D.I.上位版への
移行を決定づける
東京都多摩地域における唯一の総合的な医療機能を持つ都立病院として、
2010年3月に現在地に移転・開業した東京都立多摩総合医療センター(一般705床、精神科36床、結核48床)。救急医療、がん医療、周産期医療、脳血管疾患医療、心臓病医療、難病医療など高度専門医療を提供する地域の基幹病院である。
同病院の薬剤科がJUS D.I.を導入したのは2018年4月。薬剤科でStandard版を利用し始めて数カ月後から医師や看護師の利用もスタートした。やがて相互作用について自ら調べたいという医師の要望を受け、2019年4月からAdvance版にクラスアップした。
JUS D.I.の運用を開始した2018年4月、時を同じくしてDI担当になったのが医薬品情報室専任薬剤師主任の早船真弘氏だ。JUS D.I.に対して最初に浮かんだイメージは、「このシステムが院内のどこでも、誰もが利用できれば、病棟薬剤師はもちろん、医師や看護師にとっても有用な情報が即座に得られるようになるのでは――」というものだった。
それまで院内でのパソコンを使った医薬品情報検索は、電子カルテに付属する医薬品情報検索システムと、病棟業務で利用している薬剤管理指導支援システムの2つのシステムから添付文書情報を参照するのみであり、それらの情報更新は1カ月に1回程度と、最新といえるほどのものではなかった※。そのため、病棟などでインタビューフォームや書籍を参照したい場合は薬剤科に戻って確認するしか方法がなく、医師や病棟薬剤師は不便を強いられていた。同様に、薬剤科のDI室では問い合わせの電話を頻繁に受けることが常態化していたため、専任薬剤師の負担も大きくなっていた。「DI室への電話による問い合わせは1日20~25件ほどありました。それが、JUS D.I.導入後、医師からの問い合わせは病棟薬剤師がその場で医薬品情報を自分で検索して答えるようになり、DI室への電話は約4割減少しました」(早船氏)という。
※JUS D.I.は、添付文書やインタビューフォームなどの情報が毎日更新される。
医薬品情報室
専任薬剤師主任
早船 真弘 氏
剤科によるJUS D.I.運用の特徴は、JUS D.I.が標準で備えている情報の他に、オプション機能ならびに掲示板機能へ独自に作成した医薬品情報を多数登録し、各種の役に立つ情報を提供している点である。
オプション機能に登録している情報は、基本的にDI室への問い合わせが多い内容や、病棟薬剤師が日頃質問を受ける事柄で、これらを薬剤ごとにまとめて掲載している。具体的には、次のような情報だ。
①医療安全・適正使用情報(名称、外観類似の注意など)
②採用に関する情報(診療科限定など)
③粉砕一包化可否(粉砕可否、簡易懸濁可否、一包化可否)
④新薬ヒヤリング情報
⑤手術時の抗血栓薬の扱い
⑥配合変化・簡易懸濁情報
⑦適正使用ガイド
⑧治療薬ハンドブック(分類別)
⑨治療薬ハンドブック(成分別)
②の診療科を限定した採用薬とは、薬事委員会において特定の疾患が適応の場合や副作用のリスクが高いことなどから診療科の専門医に限って処方できる薬である。採用期間も限定的なため、診療科ごとに記憶するのは困難である。そこでJUS D.I.に登録しておくことで、このような複雑な情報も一目でわかるようにしている。③の簡易懸濁は導入当初からすべての採用薬について懸濁の可否をテキストで登録しているが、しばらく使っているうちに一部の薬剤にのみ製薬会社から提供されるPDF文書を⑥として追加した。基本的には懸濁可否の情報があれば十分だが、採用薬の中には懸濁方法などが特殊なものがあるため詳細な情報が必要になるだろうと早船氏が判断して登録したという。また、⑧と⑨の治療薬ハンドブックは、電子版のデータを出版元のじほう社との契約により日本ユースウェアシステム社が販売しているもので、主に薬剤師にとって必要な情報が簡単に見やすくまとめられている。こうした一般的に販売されている情報をJUS D.I.のオプションとして登録し、病院側でメンテナンスすることなく活用する方法もある。このように書籍などにまとめられている情報もあるが、参考書籍を全病棟に備えることは現実的に難しいと早船氏。「それぞれの情報を項目ごとにまとめていれば容易に確認することができ、医師や看護師からの問い合わせにスピーディーに対応できます。特に採用に関する情報や簡易懸濁の情報は病棟薬剤師が調べることの多い情報なので、業務効率化のために登録しています」。
オプションに登録する各項目の情報入手は書籍のほか、製薬会社のホームページ、製薬会社への問い合わせ、MRへのヒヤリング、ジャーナルなどに掲載されている論文からの情報に基づいている。これまでは情報入手に必要な資料を探す手間があったが、今ではオプションという形でJUS D.I.に情報が整理され負担が軽減した。「薬事委員会に提出する資料作成なども含め、JUS D.I.によって医薬品情報にかかわる作業時間が大幅に短縮できたと思っています」(早船氏)。
こうしたオプション登録情報は、JUS D.I.運用開始から約1年の間に早船氏が自ら情報を集めて作成したものだ。それらの情報は、添付文書が改訂された時や新薬が発売された時などを中心に1カ月に1回程度のメンテナンスを行っているという。
一方、掲示板機能に登録している情報は、複数の薬剤にまたがる情報や院内に周知したい内容である。配合変化表や、持参薬と代表的な薬剤との同効薬換算表は掲示板を開けばいつでも参照できる。このほか、院内に向けて適正使用情報や、回収、供給の情報についても掲示板機能で発信することで、現場で役立ててもらおうとしている。
血液腫瘍内科病棟
専任薬剤師
山下 理菜 氏
JUS D.I.の導入で最も便利になったと実感しているのは、病棟薬剤師である。以前の電子カルテ端末で検索できるのは添付文書情報のみで、例えばインタビューフォームを確認したい場合は、地下1階の薬剤科に戻って書庫から探して調べたり、電話でDI担当に問い合わせたりしていた。それがJUS D.I.の導入によって、インタビューフォームはもちろん、適正使用の手引きといった標準的な情報をはじめ、簡易懸濁可否や配合変化など、オプションに登録された情報まで、多くの情報が病棟の端末から参照できるようになった。これにより大幅な業務環境の改善と作業効率の向上がもたらされたと病棟薬剤師は話す。
血液腫瘍内科・総合内科病棟を担当する病棟専任薬剤師の山下理菜氏は、JUS D.I.導入前で多い時には1日2~3回は薬剤科に戻り調べていたという。「病棟から地下1階まで降りて情報を調べに戻ると、最低でも10分以上は必要で、込み入った問い合わせ内容だと、その倍以上かかってしまうこともありました。現在では、JUS D.I.で知りたい情報のほとんどのことが調べられるので、DI室への問い合わせは複雑な内容だけになりました。日中、薬剤科に戻ることはほとんどありません」(山下氏)。また、血液腫瘍内科という性格から、医師から医薬品情報に関する質問を受けることが多く、1カ月に70~80件はあるという。JUS D.I.がなければ薬剤科に戻るために相当無駄な時間が発生したであろう。それを考えただけでも、「JUS D.I.がなければ仕事になりません」と山下氏は強調する。
救命救急病棟
専任薬剤師
南 恵里 氏
以前は医師や病棟看護師がDI室に問い合わせなければわからなかった質問を、病棟薬剤師がJUS D.I.によって即座に回答できるようになり、コミュニケーションがとりやすくなった。その結果、医師や看護師などからの問い合わせ件数自体も以前より増えたと指摘するのは、救命救急病棟を担当する病棟専任薬剤師の南恵里氏だ。救命救急病棟の入院患者は複数の点滴ルートで同時に静注しているケースが多く、配合変化に関する質問が特に多いという。「インタビューフォームや掲示板に掲載された配合変化表などをJUS D.I.で調べられるようになり、質問に対してスピーディーに答えられるようになりました」(南氏)。一方、血液腫瘍内科病棟担当の山下氏は「免疫抑制剤など相互作用を生じやすい薬を服用している患者が多いため、新しい薬の服用を開始する際に服用中の薬との相互作用に関する問い合わせをよく受けます。そのような機会にAdvance版移行で利用できるようになった相互作用検索機能が非常に役立っています」と話す。
リウマチ膠原病科部長
島田 浩太 氏
問い合わせ内容について山下氏は、医師や看護師と一緒にJUS D.I.の画面を見ながら説明することが多いという。直接顔を合わせて同じ情報を見ているので、薬剤師は医師や看護師が理解できているかどうかを確認することができる。したがって、正確な意思疎通が図れ、医療安全の向上につながっているのだと説明する。
また、そういった機会を得ることで医師や看護師もJUS D.I.の使い方を覚えて、自ら情報入手する場面が増えてきた。「JUS D.I.で調べたうえで質問されるようになったため、薬剤に関して医師から相談される質問の内容がより深くなって、医療の質の向上につながっているのではと感じています」とJUS D.I.の運用効果を両氏は説明する。
JUS D.I.は電子カルテ画面からも利用できるよう設定されており、医師が利用する場合は電子カルテのDI参照から使用するのが一般的である。中には業務上欠かせないツールの一つとして日々JUS D.I.を利用する医師もおり、そのうちの一人が、「JUS D.I.があって当たり前のようになっています」と話すリウマチ膠原病科部長の島田浩太氏だ。「副作用などについて説明する際、JUS D.I.を患者さんと一緒に見ることが多いです。それは医療用医薬品には何らかの有害事象があり、どの薬にも副作用などのリスクがあることを理解してもらいたいと思っているからです」。
看護師長
専任リスクマネージャー
佐藤 香代子 氏
以前は電子カルテに付属したシステムでテキスト表示される添付文書を利用する以外は、別の端末でインターネット上の情報を検索していた。だがJUS D.I.の導入によって電子カルテ端末だけで必要な情報が閲覧できるようになり、患者との供覧がしやすくなったと話す。「以前の添付文書情報の参照では、情報がテキスト表示だったため患者に説明したい箇所を即座に見つけることが難しかったのですが、JUS D.I.はPDFの添付文書がそのまま表示されるので、副作用などの情報もスムーズに患者に指し示すことができるようになりました。とても便利になったと思っています」(島田氏)。
加えて、JUS D.I.では薬に関する情報以外も参照するという。たとえば医薬品の取り寄せに関する院内申請書などの書類をDI担当が掲示板にまとめているので、とても便利だと話す。
一方、JUS D.I.の利用は病棟看護師の間でも徐々に定着しつつあるようだ。看護師への利用普及に関して看護師長・専任リスクマネージャーの佐藤香代子氏は、次のように話す。「担当する患者が服用している薬の薬効や副作用、その他注意点を理解し、患者の状態をアセスメントする必要があります。薬のことは薬剤師に問い合わせればわかることですが、薬剤師が近くにいない時などはできるだけ自分たちでもJUS D.I.で調べて、その患者になぜ処方されているのか理解してから与薬するよう看護師全員に促しています」(佐藤氏)。
昨今、診療科が細分化した一方で病棟は各診療科が混在することになるため、一病棟で使用する薬剤の種類が以前と比べて多くなる傾向にある。必然的に看護師も知っておくべき薬剤情報は増加している。多忙な病棟看護師自らが薬剤情報を調べて理解するためにJUS D.I.の利用を促進することは自然な流れであるといえるだろう。
医療安全対策室長
産婦人科部長
光山 聡 氏
多摩総合医療センターでは、週1回開催される医療安全対策室会議でもJUS D.I.が利用されているという。同会議は、院内のインシデント、アクシデントレポートを基に現場に周知すべき注意喚起や対策について話し合われる場である。現在、医療安全対策室長を務める産婦人科部長の光山聡氏を筆頭に、副院長の苅田達郎氏、神経・脳血管内科部長の上田雅之氏、薬剤科科長の廣井順子氏、看護担当科長の天野久美子氏、看護師長・専任リスクマネージャーの佐藤氏など、院内各所からメンバーとして参加している。
そのインシデントレポートの中には、内服や注射に関することが3割以上を占めているとされる。「会議中、レポート内容に基づいてアクシデント原因となった状況を確認する際に、JUS D.I.でインタビューフォームなどをメンバーで供覧しています。その情報を基に現場の看護師に対して、薬剤投与後何時間程度は慎重な観察が必要であるといった内容を周知しています」(佐藤氏)。
神経・脳血管内科部長
上田 雅之 氏
佐藤氏は、医療安全対策室会議で周知する前にインシデント報告された時点で薬剤一つ一つに対して薬効・副作用などを確認する。そしてどのような点に注意すべきか具体的な対策を検討し、現場に下ろすために自ら把握しておくことは専任リスクマネージャーとして当然だと強調する。以前は少しの情報を得るだけでも苦労していたのだが、JUS D.I.によって数多くの情報を素早く簡単に調べることができるようになった。つまり、それまで費やしてきた時間と手間が軽減され、必ず把握しておかなくてはならない情報を効率的に入手できるようになったのである。
薬剤科科長
廣井 順子 氏
同会議の場でアクシデント原因となった薬剤の添付文書情報やインタビューフォームなどを閲覧する場合、JUS D.I.導入以前は事前に必要な部分をプリントアウトして配布していたのだが、それ以外に必要な情報が出て来た時には手元資料では足りず手間を取ることが少なからずあったという。それが添付文書以外でも必要な医薬品情報を、電子カルテ端末を使用して会議の場で簡単に参照できるJUS D.I.により、手間を要することなく全メンバーがリアルタイムで欲しい情報を確認することが可能になったのだ。
多摩総合医療センターにおいてJUS D.I.は、薬剤師はもとより、医師や看護師など多職種での医薬品情報共有において、さまざまなシーンで利用されている。そこでは各スタッフが業務の効率化、安全性の向上のためにJUS D.I.を積極的に利用している姿が見られた。医薬品情報を一元管理する中心的なシステムとしてJUS D.I.の活用の幅がより一層広がることに大きな期待がかけられている。