TOP > 活用事例 > 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
国立国際医療研究センター病院は、2017年1月の電子カルテシステム更新に先行してJUS D.I.を導入、運用を行っている。従来の独自システムで課題だった情報の収集・管理における業務負担を解消し、医薬品情報管理室担当者の業務効率を大幅に向上した。JUS D.I.の利用を薬剤部に留まらず、医師や看護師、医事管理課職員にも拡大し、業務効率化に貢献している。
国立国際医療研究センター(NCGM)は、我が国に6つある国立高度専門医療研究センターの一つである。日本におけるエイズ治療の研究開発の最先端を担っており、エイズなどの感染症の他、糖尿病・代謝性疾患、肝炎・免疫疾患ならびに国際保健医療協力に強みを持つ。
東京都新宿区戸山にあるセンター病院(781床)の薬剤部には、常勤薬剤師約50人の他、薬剤師レジデントや助手などを含めると60人を超える職員が在籍している。HIV感染症をはじめとする、感染症に強い薬剤師がチーム医療を通して高度で先駆的な薬物療法に貢献するとともに、情報発信と臨床研究の推進や感染症に強い薬剤師の育成などに力を入れている。
その中で医薬品情報管理部門は、医薬品情報管理室長の増田純一氏(HIV感染症専門薬剤師)をはじめとする3.5人体制で、適正な薬物療法に役立つ情報を広く収集・評価し、加工するなどして医師、薬剤師、看護師などに提供している。この医薬品情報管理室がJUS D.I.の導入を主導した。
JUS D.I.導入のきっかけは、3年ほど前に同センター病院が国際的な医療機能評価である国際病院評価機構(JCI)の認定を受けようと検討したことだった。
「その機能評価要件の中の薬剤項目に、採用医薬品集がきちんと整備されていることが明示されていて、これが従来の自前で開発・運用してきた薬剤情報管理システムでは、その要件をクリアできない可能性があることがわかったのです」。増田氏は、導入検討の背景をこう説明する。
まず、医薬品情報室では数社の製品を検討し、その結果に基づき、JCI認定を受けていてJUS D.I.導入先でもある亀田総合病院(千葉県鴨川市)へ見学に行った。「JUS D.I.は医療現場で必要とされる医薬品情報の多くが、毎日の簡単な操作だけでその日の最新の情報に更新されるため、運用労力を大幅に削減することができます。もし従前のシステムのままJCIの要件を満たそうとすれば、より多くの負担を覚悟しなければならず、JUS D.I.は当初から非常に関心を集めたわけです。」労力の削減と情報管理の効率アップを両立しながら、生まれた余力をより一層高度な医薬品情報管理に役立てる。そういった運用の姿を亀田総合病院で実際に確認できたことで最終的な採用の結論に至ったと増田氏は話した。
その自前の薬剤情報管理システムは、ユーザー自身がカスタムアプリケーションを開発できる汎用データベースソフトを用いたシステム。院内および院外採用薬名をデータベース化し、添付文書などの各医薬品の詳細情報は医薬品医療機器総合機構(PMDA)などが公表しているリンク情報を埋め込んでいた。そして、それらのデータをCSV形式で出力してHTMLに加工し、薬剤部ホームページに採用医薬品集として提供してきた。
そのため、添付文書の更新情報は、毎日PMDAのホームページを確認し、更新されている場合はリンクを修正するなど、すべてを手作業で行わなければならなかった。さらに、インタビューフォームも同様で、情報提供先からダウンロードおよびPDF化して薬剤部のファイルサーバーで管理し、同システムでリンクを埋め込んでいた。その作業もすべて手作業である。情報の収集と管理のための運用作業だけでも実に大きな負担を強いられていたわけだ。
JUS D.I.導入による成果は、まず課題だった前述の医薬品情報の収集・管理に伴う工数・作業負担の大幅な改善である。「毎朝、添付文書更新の作業に30分程度、4月や10月など新薬が発売される時期は2~3時間を費やされていましたが、JUS D.I.にしてからは毎日5分程度で済みます」(増田氏)。従来の情報のメンテナンスでは、単純計算で年間375時間、1日8時間勤務とした場合で年間49日が費やされていた。「薬剤師の実質時給換算で相当な運用コストがかかっていました。仮にパートや事務職員が担当したとしても、かなりの金額に達していたと思われます」(増田氏)とし、十分な費用対効果が得られると力説した。
薬剤師の業務は年々多様化しており、薬剤師本来の薬学的知見、リソースを注ぐべき業務は増えている。削減された運用管理時間をそれらの業務に注げるようになったことは非常に大きいと話す。
DI業務にとっての医薬品情報管理システムでは、医薬品に関するさまざまな情報が網羅され、効率的に収集・管理できることがとても重要になる。前述の最新添付文書ならびにインタビューフォームは必要最低限の情報だ。JUS D.I.はこれらに加え、医薬品リスク管理計画(RMP)、先発・後発品情報、ハイリスク薬情報など、多くの情報を網羅している点を増田氏は評価している。また、薬剤の採用など、薬剤委員会の資料作成には、審査報告書を参照する機会もあり、今後JUS D.I.が同情報も掲載する予定になっていることにも期待している。
管理の効率性という点で増田氏がさらに挙げた点の1つに、採用薬フラグの設定に関することがある。同病院では本採用に至るまでに、3カ月程度試験的に採用し、効能効果や副作用などを確認する仮採用期間を設けている。JUS D.I.では数種類のフラグを容易に設定・変更ができ、すぐに反映されるため、仮採用、本採用を分けて管理する他、院外採用の区別にも同様にフラグ設定しており、非常に便利だという。「以前のシステムでは採用薬ファイルを作成し、バッチファイルでサーバーにアップロードする作業が必要でしたが、JUS D.I.は管理者権限でリアルタイムに設定変更できるので、とても管理が楽です」(増田氏)。
JUS D.I.は薬剤部の薬剤師に限らず、外来診療の医師や医事課職員にも日常的に利用されている。例えば、医師は処方オーダーの際に医薬品名を右クリックして表示される添付文書の参照を頻繁に利用しているという。エイズ治療・研究開発センターの塚田訓久氏は、HIV感染症患者にHIV以外の薬を処方する際に添付文書を参照し、問題になる相互作用がないか確認していると話す。「最新の抗HIV薬の情報は基本的に海外の情報サイトから入手することが多いのですが、併用薬の中で使い慣れないものはJUS D.I.で相互作用などを確認しています。」
その際にオーダー画面から即、医薬品情報が確認できる点を評価する。以前も同様の操作で添付文書情報にアクセスできたが、すべてテキストベースの情報だった。「添付文書に併用禁忌・注意薬として明記されているもの以外にも薬物相互作用が存在しうるため、薬物動態における代謝の項目をよく参照しますが、テキストだけの情報だと素早く見つけることが困難です。JUS D.I.では表やグラフで確認できますし、他に薬剤写真も参照できるため、新しい薬を処方する際には患者さんへの説明で非常に重宝しています」(塚田氏)と話す。
また、JUS D.I.へのアクセス数ログで増田氏が驚いたのは、医事管理課職員の利用が院内第3位だったことだと言う。医事管理課の権堀千春氏が、その利用ケースを説明する。同氏は主にDPC請求コーディングを担当している。
医事管理課 権堀 千春 氏
DPC請求であっても、HIV治療薬や血友病などの血液凝固因子製剤などは出来高請求できる。そのため当該薬の請求の際には医事会計システムの設定を変更する必要が生じる。「以前は、出来高請求可能な対象薬なのかどうか、ネット検索していました。それがJUS D.I.によって手元の端末からだけで確認したい最新の情報にアクセスができ、容易に調べられるため、システムの設定変更に伴う時間を大幅に短縮することができました。この環境はJUS D.I.があるからこそで、とても元の環境に戻ることは考えられません」(権堀氏)とJUS D.I.の運用メリットを話す。医事管理課では、こうしたDPC請求を担当している全員と外来・入院にかかる算定を行っている約30人の職員が、JUS D.I.に月間200~400ログイン回数で利用している。
薬剤部のホームページ上には、医薬品情報管理室への問い合わせ内容と集計結果が公開されている。それによると多いのは、代替薬、配合変化、用法・用量、相互作用などの順になるという。「こうしたニーズの中でJUS D.I.は、同じ薬効群でどのような薬があるか検索できる点が非常に役立っていて、これは重要なポイントだと思います」(増田氏)と話す。さらに、最新バージョンでは同じ薬効群の中で適応や用法・用量、薬価などの項目で、数種類の薬を比較対照できる機能を高く評価しており、院内環境が整い次第、最新バージョンを導入する意向だ。
JUS D.I.の価値は、権堀氏が述べたように従来インターネットや添付文書集など常に複数の媒体にアプローチしながら検索していた情報が、手元の端末だけで容易に参照できること。さらに、そのデータが日々、常に最新の情報に更新されていることで情報の鮮度と正確性を気にする必要がない点にある。つまり、JUS D.I.で出力させた情報データはそのまま資料の作成や処方相談の際などで提供できるのだ。他社システムではこうはいかない。JUS D.I.は、DI業務の情報収集・管理プロセスが、同時に情報の評価・提供のプロセスも効率化してしまうという、現場に役立つこれまでに無い優れた環境を構築する。
医薬品情報管理室長
HIV感染症専門薬剤師
増田 純一 氏
また、増田氏はDI業務の情報の評価・提供において、職種によって異なる情報内容のニーズを的確に把握し、それに応える情報強化が大切だとする。同効薬検索で適応や用法・用量、薬価などの項目で比較参照できる機能、あるいは配合変化の情報など、今後実装を望む機能もあるとしつつ、最新且つ正確な情報を保持できるデータベースを持つからこそ、そうした要望を取り込むことができる余地を持っているとJUS D.I.を評価している。そして、「JUS D.I.をフル活用することで、それぞれの現場、職種に求められている医薬品のさまざまな情報に沿って抽出・加工し、提供していける。こういった機能によって今後も情報強化の仕組みづくりにより一層力を注いでいきたい」(増田氏)と展望を語った。