薬剤科長代理 佐村 優氏
横浜市北部の中核病院として地域医療に貢献する横浜総合病院(7病棟 300床)は、同エリアの2次救急を担うとともに、専門的な治療の迅速・適切な提供に対する市の基準を満たした心疾患救急医療体制参加医療機関でもある。13の診療科に加え、より高度で先進的な治療に対応すべく、ハートセンター(循環器・心臓血管外科)、脳神経センター(脳神経外科・脳血管内治療部)など6つの専門医療のための院内施設を設けている。
同院の薬剤部門(薬剤科)は薬剤師32名、事務職員4名から構成(2016年7月現在)され、外来処方せんは1日約500枚にものぼる(院内処方率99%)。勤続14年目となるDI担当の佐村氏によれば、同院では比較的早い時期から、治療における薬剤師の重要性を考慮する動きが採択されてきたという。「薬剤師の病棟常駐は1990年2月に脳外科病棟から始まり、各病棟へと展開していきました。同年6月には診療報酬の入院調剤技術基本料の施設認定を取得しています。また、2005年からは抗MRSA 薬の薬物治療モニタリングを開始しました。血中濃度のモニタリングなどによる薬物動態的視点を活用するなど、感染症治療において、抗菌薬を選択する段階から薬剤師が積極的に関わっていくようになりました」
こうした病棟における薬剤師の活躍に伴って、医師や看護師ほかコメディカルからも治療における病棟薬剤師の必要性・重要度は高まっていった。「2012年度からは病棟薬剤業務実施加算を算定しています。2014年度の平均でみると、月間の病棟薬剤業務は約1500件、同じく薬剤管理指導は約1000件となっています」(佐村氏)
現在の同院では一病棟に2~3名の薬剤師が配置され、そのうち1 ~ 1.5名が常駐しているが、こうした病棟薬剤師の活躍において、医薬品情報を提供する上で大きなベースとなっているのが、院内ネットワークを用いた医薬品情報一元管理システムJUS D.I.だと佐村氏はいう。
DI 業務おけるJUS D.I. の導入による変化について、佐村氏は「作業の質の向上」を筆頭に挙げる。
「導入以前から、院内ネットワーク上に設置したDI 室作成のホームページによって医薬品情報を提供していましたが、その際、添付文書情報の更新に多くの時間を費やしていました。毎日必ず医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトで改訂情報を閲覧し、収集した新しい添付文書をアップロードする。さらにインタビューフォームの収集・リンク付けといった作業も含め、多いときだと半日近くを割かなければならない状況だったのが、JUS D.I. の導入により、添付文書やインタビューフォームなどに関する一切のルーチン業務から解放されたことで、プラスアルファとしての情報収集にかける時間が確保できるようになったのは非常に大きいですね」
同院DI 室では、JUS D.I. 導入以前から、PMDA 以外にも、各製薬メーカー・医療関連企業・学会ほか、医療・医薬分野の最新ニュースを発信するサイトを閲覧し、多角的な情報収集を行ってきた。
「添付文書やインタビューフォーム、医薬品リスク管理(RMP)などの最新情報が簡単に閲覧できることは凄く重要なことだと思います。ただし、そうしたもの以外にも病棟業務で役立つ情報は数多く存在します。例えば、PMDAのサイトで閲覧できる注意喚起情報には「緊急安全性情報・安全性速報」、「使用上の注意の改訂喚起指示」などに加えて、PMDA、学会、製薬企業が作成している「適正使用に関するお知らせ」などもあります。また、RMP などでも、JUS D.I. で自動更新される内容がベースになるのはもちろんですが、実際のところ、そこに上がって来ないような情報もあるわけで、そうしたものは自分たちで収集し、補っています。こうした同じ趣旨の情報を多面的に捉えることも、よりきめの細かい薬剤選択を行う上で重要なことだと考えます」(佐村氏)
独自に収集したさまざまな情報は、関連する薬剤のページからオプションのリンク設定(情報が複数個になる場合はフォルダーごとに分類)がなされており、すべての院内スタッフが端末から簡単に見られるようになっている。このため病棟薬剤師が問い合わせへの確認に用いるだけでなく、医師、看護師などが自ら閲覧するケースも多いという。
「JUS D.I. 導入以前は、病棟薬剤師が処方薬の問い合わせなどを受けた場合、治療薬マニュアルなどの書籍を使って調べていましたから、そうした作業にかかる時間は圧倒的に短縮されていますね。また、導入後は書籍などの紙媒体について、病院としての購入は行っていませんので経費の削減にも関与しているといえます」
「DI 室の仕事というのは本来、常に各方面にアンテナを張りながらいろいろな情報を収集することだと思うんです。企業から送られてくる情報ももちろんですが、自分たちのほうから動いて情報を取りにいかなくてはいけないと。突き詰めれば、添付文書やRMP などの公的な情報というのはあって当たり前のものだと捉えていますので、いかにしてプラスアルファを収集するか。言ってみれば、JUS D.I. によって確保された時間を用いて、このシステムに付加価値を生み出していくことが自分たちの役割だと思っています」
JUS D.I. の大きな特徴のひとつとなる、添付文書、RMP、インタビューフォームなど各種医薬品情報の自動更新は、国内で販売されるほぼすべての医薬品を網羅している点や、その更新頻度の高さから、ほぼすべてのユーザーに高評価を受けている。この機能を最大限利用しつつ、さらに新たな情報を加味することで、より病棟業務で活かされる医薬品情報が提供できると話す佐村氏は、続いて次のように指摘する。
「さらに情報についていえば、プラスアルファの外部情報を収集・共有するのはもちろん重要ですが、そうして集積したものを如何に加工し、病棟で役立つ形にして発信するかという点のほうが、より重要だといえるでしょう」
一例として佐村氏はDI 室で発行している定例の医薬品情報「DI 室ニュース」を挙げる。
「これは、ひとつには薬剤管理指導料に関する施設基準において、「DI 室の薬剤師が有効性、安全性等薬学的情報の管理及び医師等に対する情報提供を行うこと」という基準を満たすという側面もありますが、内容的には既存の情報を提供するだけでなく、それらの情報を評価した上での情報発信に努めています。例えば6月発行分では、約2年ぶりに日本糖尿病学会の「SGLT2 阻害薬の適正使用に関する Recommendation」が改訂されたことから、同薬についてのRMP 変更に関する情報を取り上げています。この際、昨年の12月にメーカーから出されたRMP の改訂文書なども引用して、変更の経緯なども把握しやすいように努めました」
また、オリジナルの情報作成・共有でいえば、薬剤の院内使用基準をはじめ、病院で独自に作成した各疾患のプロトコルに対しても、薬剤部門が深く関与しているのが同院の大きな特徴のひとつといえる。
「病棟や外来調剤などでの問い合わせや確認が多い要件のひとつに腎機能別の薬剤投与量があります。これに対しDI 室では日本腎臓病薬物療法学会で作成された資料をJUS D.I. 上で閲覧できるようにしています。また、問い合わせ頻度の多く、薬剤によって国内外の用法用量が異なる抗菌薬については、日本腎臓病薬物療法学会の作成資料に加えて、ガイドライン、添付文書、サンフォード感染症治療ガイドなどの情報を併記し、院内推奨量を定めた資料をPDF ファイルで作成し、JUS D.I. 上で閲覧できるようにしています。さらに、当院では2012年から感染症担当薬剤師を配置し、各病棟薬剤師との連携による感染症治療に対する支援体制をとっていますが、この院内プロジェクトのなかで、医師、看護師、薬剤師などが協同で作成した当院独自の「市中肺炎における薬物治療開始までのプロトコル」の活用により、当院における有用な検査や有効な抗菌薬選択が有意に推進されるという結果が出ています」
DI 室ニュース
こうした院内独自の取り組みを進めていくうえでも、JUS D.I. の導入によって生じた大幅な時間的コストの削減が貢献している部分は少なくないだろう。もちろん、作成した文書はすべてデータ化され、JUS D.I. の情報リンク機能により、関連した薬剤のページで一元管理されているほか、広く院内に発信したい情報共有のための「お知らせ掲示板機能」を用いての周知も行われている。
同院では8月より、これまで使用していたオーダリングから電子カルテへとシステムの移行を行なう。これまでのオーダリングシステムでは、JUS D.I. の情報をリンクさせる設定により、簡易な操作で閲覧が可能な状態になっていたが、システム移行に伴って、医薬品情報管理のシステムをJUS D.I.から変更するといった話もあったという。しかしながら、「薬剤科をはじめとする院内スタッフの要望により、最終的に現状のまま継続してもらうことが決まりました」と佐村氏。
「新たに導入する電子カルテですが、当初の予定では、薬局関連はすべて他社のシステムが採用されることになっていました。多くの病院・薬局で採用されている、医療業界では有名な会社のもので、システム部門からは「添付文書やインタビューフォームが見られるし、今と変わらないのでは︖」とのことでしたが、病院のDI 業務にとってより有益である点を説明し、残してもらうことになりました。例えば、JUS D.I. にはRMP が載っていますが、他社にはありませんでした。近年の薬剤情報に対する考え方として、唯一の公的文書といわれる添付文書に次ぐ有用な情報はインタビューフォームよりもRMP ではないかと思うんです」
また、院内独自の使用基準やプロトコルほか、外部から収集・加工したさまざまなオリジナルの情報をリンク設定することで容易に閲覧できるJUS D.I. ならではのメリットもシステム継続の大きなポイントのひとつになった。
JUS D.I. の導入に対し、佐村氏は「基本的な情報をベースに、より深い、創造的な情報の収集と、それらに基づいた独自の情報の作成・共有が可能になった点を高く評価しています」と述べ、また、今後のシステム活用の展望について次のように話す。
「薬剤ごとの粉砕の可否や配合変化などの情報も充実させていきたいと考えています。現時点でもオプションのリンクは設定してあるので、各薬剤のページから閲覧は可能なんですが、なかなか企業から情報が取れないというのが実情です。また、病棟薬剤業務実施加算においては、病棟担当者とDI 室担当者とのカンファレンスが求められているため、当院では、毎日30分程度の終礼を実施し、病棟や中央業務において処方支援した症例、薬剤に関する質疑応答などの報告・検討を行っていますが、その内容については別途データベース管理ソフトを用いています。なので、現状でも検索して利用できる状態にはあるんですが、そうした情報をQ&A 集のようにまとめられたらと思っていたところ、先日、JUS D.I. の営業担当の方から、今後、薬剤ごとにリンク設定が可能なQ&A の機能が追加される予定だという話を聞きました。こうしたユーザーの現場での想いを受けて配信データやコンテンツを追加し、成長していくというJUS D.I. のスタンスは大きな魅力ですね。だからこそ単なる医薬品検索ではない、DI 業務の推進に役立つシステムなんだと思います。JUS D.I. で薬剤ごとに関連付けることができれば、病棟で同様の質問を薬剤師が受けた場合、今以上に迅速な対応が可能になります」