TOP > 活用事例 > 医療法人社団 明芳会 横浜旭中央総合病院
薬剤部長 前田 拓哉氏
2008年10月よりエントリー版JUS D.I. を運用する横浜旭中央総合病院薬剤部。医師や臨床工学技士、医事課職員など利用者の拡大に伴い、スタンダード版を導入、2015 年11 月より運用を開始している。JUS D.I. が医療安全に寄与することを訴え、薬剤部だけでない関係各部署の利用促進の必要性を説いて導入承認に結びつけた。添付文書情報の参照だけでなく、薬剤部が独自に収載した情報の利用価値が認められた点が、そのポイントだった。
1970年代末、神奈川県横浜市北西部に造られた横浜若葉台団地で81 年に開設された、IMS グループの横浜旭中央総合病院(515 床)。地域の地理的特性により一病院完結型の方針から、救急・高度医療を中心とした急性期医療に加え、回復期リハビリテーション病棟・療養病棟を有し慢性期医療まで対応している。
同病院の薬剤部は現在、薬剤部長の前田拓哉氏を筆頭に薬剤師34 人が、中央業務(調剤)、病棟業務、化学療法担当、DI 担当の4 チーム体制で薬剤部業務に従事している。同病院が医薬品情報一元管理システム「JUS D.I.」を導入したのは2008 年10月。
導入以前の状況を知る薬剤部主任の松丸美佳氏は、当時はDI 担当の専任ではなく、医師等からの問い合わせに対し、質問を受けた薬剤師がそれぞれ自ら添付文書ファイルなどを基に調べ回答していたと話す。「その後、DI 業務担当者が一括で問い合わせに対応するようになり、JUS D.I. の導入によって最新の添付文書情報を容易に検索できるため業務負担の軽減に役立ちました。現在ではインタビューフォームなども提供開始後すぐに参照できるようになり、より広範で正確な情報提供が可能になりました」(松丸氏)と導入成果の一端を説明する。
薬剤部の業務負担軽減に一定の成果をもたらしたJUS D.I. だが、同時ログインが5 人に制限されているエントリー版だった。導入当初は、「(同時アクセス制限のない)スタンダード版が必要になるまで利用が進むと思っていなかった」(前田氏)というが、利用者が拡大するにつれ各所から利用したいときに使えないという不満が頻出してきたという。
JUS D.I. の利用は、DI 専任担当者はもとより、病棟業務にあたる10人の薬剤師もDI 業務をサポートしており、アクセスする頻度も高い。一方、医師は電子カルテの処方オーダー画面からJUS D.I. の添付文書を参照する際はログイン制限にかかわらず利用できるものの、独自にまとめた医薬品情報などを参照するためにログインするケースもあり、利用したいときに使えないという苦情が出ていた。
その一例として、「腎機能低下時に注意が必要な薬剤と投与量をまとめた情報などを見たいというドクターから、外来患者を前にして調べたいときにログインできないことが多いという声が上がっていました」と前田氏。こうした情報は人工透析業務にかかわっている臨床工学技師も参照することがあり、同様の不満が漏れていたという。
さらに、医事課でも日々の業務で薬剤とレセプト病名のチェックにJUSD.I. を利用することもあるという。「特に毎月のレセプト点検時期は、入院担当の医事課職員だけでも5 人いるので、この時期に利用する頻度はとても高く、ログインできないことも多かったのが実情です。すでに投与した薬剤の点検なので患者さんのカルテを開き、JUS D.I. の添付文書情報から確認できますが、その手間が煩雑なため直接ログインできることを望んでいました」(医事課係長 大原亜衣氏)と説明する。
こうした情報を見たいときにJUS D.I. を利用できる環境がほしいという声はあったものの、薬剤部だけの要求からではなかなか稟議承認が得られなかったという。「当院はIMS グループの一員なので、一定額以上の案件についてはグループ本部への稟議申請が必要です。各病院も様々な視点で優先度をつけて稟議申請を行っているので、なかなか優先度を高く評価してもらえなかったというが実情でした」(前田氏)。
エントリー版JUS D.I. の運用を開始して7年。薬剤部はもとより、医師や臨床工学技士、医事課など関係する職種の人たちが運用のメリットを認識し、利用拡大を希望する声が上がっていった。前田氏は、そうした声を具体的な利用例として提示しつつ、一部門のシステムではなく、病院全体としての利用価値、運用メリットを示すことが重要だと指摘する。
「医療安全の責任者である副院長もJUS D.I.を頻繁に利用していたことも大きな要因ですが、薬剤の安全な利用の観点から、医療安全への効果を全面的に打ち出せたことが稟議申請する際の大事なポイントでした」(前田氏)とし、スタンダード版の導入承認に結びついたと話す。
医師が頻繁に利用し、そのメリットが高いという声を集めることは、スタンダード版のJUS D.I. を導入する大きな動機になる。ただ、添付文書の参照は前述したように電子カルテの処方画面で薬剤名を右クリックしてアクセス可能であり、ログイン数の制限を受けない。最も重要な点は、腎機能低下時に注意が必要な薬剤および投与量の情報のように、薬剤部DI 担当者が独自にまとめ収載した情報があるかどうか、医師をはじめとする関係職種にその参照メリットが高いかどうかがポイントになるだろう。
2015年12月にスタンダード版を導入して以降、院内に制限なく利用できることを周知していないものの、当然ながら以前のような不満の声はなく、利用頻度も上がっているという。
「病棟担当薬剤師は、病棟カンファレンスに参加することも多いのですが、そのときに医師から薬剤使用の意見を求められても即座にJUS D.I. にアクセスして確認できるようになり、利便性が上がったと話しています」(松丸氏)
医事課係長 大原 亜衣氏
一方、医事課職員もレセプト点検時に電子カルテを開くことなく添付文書を調べられるようになり、業務の効率性は上がった。「ログイン制限があった以前と比べ、薬剤部に気兼ねしなくても使えるところは、とても便利になりました」(大原氏)と導入の成果を話す。
JUS D.I. の基本機能として最も利用価値の高いのは、最新の添付文書情報を参照できる点。毎日、情報が更新されるため、製薬メーカー担当者から持たされる情報よりいち早く知ることができる。「製剤の安定性や配合変化などインタビューフォームでしか入手できない情報も、メーカーが公表した時点(PMDA にアップされた時点)で入手できる点、あるいは最近はブルーレターやイエローレターの情報も提供されているので、とても利用価値は高いと実感しています」(松丸氏)という。
また、様々な情報源から得た薬剤情報を編集し、JUS D.I. に収載し、公開する機能も前述したように利用価値は高い。腎機能低下時の注意医薬品は医師や臨床工学技士にとっても参照機会はあるし、簡易懸濁法の適用可否をまとめた情報は病棟看護師もよく閲覧しているという。
薬剤部主任 松丸 美佳氏
「書籍やインタビューフォームで調べないとわからない情報、例えば配合変化の情報などを何らかの形でまとめて収録し、参照できる環境をJUS D.I. で実現したいと考えています。また、DI ニュースは基本的にプリントしたものを配布していますが、医師から紙媒体のみでなく電子媒体でも参照したいという要望もあり、掲示板機能などを利用して発信するようにしたいと思っています」(松丸氏)と、JUS D.I. の利用価値を高めるべく活用法を拡充していこうと計画している。