広島赤十字・原爆病院では、全医療スタッフが利用できる医薬品情報一元管理システムの導入により、薬剤部薬剤情報課の業務を一変させた。大きな業務負担になっていたパソコンによる医薬品情報データベースのメンテナンス作業から解放され、薬剤情報課の本来の業務である医薬品利用に関するDI活動の拡充を実現し、限られたスタッフでの病棟業務強化などを可能にした。
薬剤部部長(薬剤情報課長兼務)の原田保徳氏
「医薬品情報一元管理システムの導入によって、煩雑さを極めていた独自の医薬品情報データベース(以下、DB)のメンテナンスから解放され、医薬品の適正使用を推進するために医薬品に関するあらゆる情報を収集・整理・評価し、院内スタッフに提供するという薬剤情報課の本来の業務が遂行できるようになりました」。広島赤十字・原爆病院薬剤部部長の原田保徳氏は、医薬品情報一元管理システムの導入効果をこう強調する。
多くの病院薬剤部が医薬品情報活動の重要性を認識しつつも、調剤・製剤、服薬指導などの業務体制を整えることが最重要課題であり、DIのためのプラットフォームづくりのための投資と体制強化にまで踏み込むことはなかなか難しい。
同病院はDI業務の効率化のために早くから医薬品情報のコンピュータ管理を行ってきたものの、そのメンテナンス作業が逆に足かせとなっていた。 2006年7月に導入した日本ユースウェアシステムの医薬品情報一元管理システム「JUS D.I.」は、そうした課題を解決し、薬剤情報課の本来の姿を取り戻すことに繋がり、しかも院内での薬剤部の存在価値そのものを向上させることに結びついたたという。
病床数651床を有する急性期病院の広島赤十字・原爆病院は、敷地内に併設された原爆病院を1988年に統合し、現在に至っている。原爆症による血液疾患の患者が多く、また地域がん診療連携拠点病院の認定を受け2007年には外来化学療法センターを開設した。そうした中で、年を追うごとに薬剤部の重要性が高まっているという。
同院薬剤部の特長は、治験事業を活発に行っており、全国的に見ても有数の施設といえることだ。薬剤情報課は、その治験事務局、治験審査委員会事務局として治験にかかわる業務も行っている。このほか、TPN(Total parental nutrition:中心静脈栄養)調製の365日稼動(無菌室)や、高額医薬品の精査徹底などが薬剤部の特色といえる。
「現在薬剤師は23名を擁していますが、薬剤師の病棟業務の充実など、現状では十分な体制で臨めていないのが課題といえます。また、DI活動においても、担当者は兼任であることに加え、以前は採用医薬品集の編集のために忙殺され、医薬品情報業務本来の仕事が十分にできませんでした」。原田氏は薬剤部の現状をこう述べるとともに、JUS D.I.を導入する以前の薬剤情報課におけるDI活動の課題をこう振り返る。
初期の手帳サイズの採用医薬品集(上)とパソコンのデータベースで作成していたバインダー形式の採用医薬品集。作成・保守には多くの時間が費やされた
同病院のドクターが日常的に使う採用医薬品集の整備を本格的に始めたのは、1982年にさかのぼる。薬剤師が分担して添付文書から原稿を起こし、印刷業者によって手帳サイズの医薬品集を作成。1冊5000円の原価を投じて作成したものの、当然、編集中でさえ情報更新はあり、その都度追補情報を挟み込んでいったが、使い勝手は悪くなる一方。86年からはパソコンの汎用DBソフト「桐」を使って医薬品情報の管理を始めた。
「日本医薬品全集をもとに、効能・効果、禁忌情報など最低限必要な情報に限ってDB化し、そのデータ入力に1年をかけてバインダー形式の採用医薬品集を完成させ、各外来・病棟に配布しました。これにより印刷・製本などのコスト削減と情報の更新頻度を上げることは実現できましたが、日々のデータ更新作業や年に10回開催される薬事審議会での採用薬追加・削除の結果を反映したデータ差し替えなどDBのメンテナンス作業が、DI担当者の大きな負担になっていました」(原田氏)と、約20年にわたる汎用データベースでの作業の大変さを振り返る。その、薬剤情報課の負担になっていたDBのメンテナンス作業から開放し、本来の医薬品情報活動に専念できるようにと導入されたのがJUS D.I.だった。
同システムは、学会に参加したスタッフが展示ブースでデモを偶然に見かけたのがきっかけだったという。
電子カルテのオーダー画面からも簡単に医薬品情報にアクセスできる
「JUS D.I.をすでに運用していた大学病院に問い合わせると評価は高く、販売元のスズケンにデモを依頼して機能を検証してみた後、導入決定に至りました。 2004年に運用を開始した電子カルテシステム「Mega OAK」(NEC製)と容易に連携でき、オーダー画面からも医薬品情報に簡単にアクセスできることもポイントでした」(原田氏)と導入の経緯を述べる。システム導入にあたって原田氏は、JUS D.I.は薬剤部のための部門システムでなく、DI活動の基盤となるもので、医療スタッフ全員の業務にメリットをもたらすものであることを強調し、病院システムとしての導入に理解を求めた、と話す。
JUS D.I.は、院内620台のクライアント端末から全医療スタッフがアクセスできる。Webブラウザでのアクセスに加え、Mega OAKのオーダー画面からもアクセスでき、処方の際に禁忌、相互作用などの確認に利用されているほか、看護師も処方された医薬品の詳細を理解するために利用されているという。
懸案だった薬剤情報課の採用医薬品集DBメンテナンス作業も、JUS D.I.の「院内医薬品集作成機能」を利用することで、負担も大幅に軽減された。DI担当を兼ねる治験管理課係長の関本恭子氏は、「薬事審議会用の資料作成では、例えば同効薬一覧を作成するにしても以前のシステム環境に比べたら非常に効率的にできますし、JUS D.I.で確認しながら作成することで情報漏れなどのミスをなくすことができるようになりました」と、導入による具体的な効果を説明する。
2年半の運用を経て、現在は月間1300アクセスを数える。同システムは添付文書などの情報更新は毎日自動的に配信されるが、同病院では緊急情報を除いては週1回の更新を行っている。
医薬品情報一元管理システムの運用により、メンテナンス作業から解放されたことで最も大きく変わった点は、DI活動の本来の責務といえる医薬品の適正かつ有効使用のための情報発信ができるようになったことだと原田氏は強調する。
煩雑なメンテナンス作業から解放され、薬効分類一覧など各種の医薬品情報提供が可能になった
「以前からやりたいと思っていた薬効別分類一覧など、診療現場で役立つ医薬品情報を整理・評価し、スタッフに提供できる環境が整ったことが非常に大きい。例えば、消化性潰瘍治療薬、抗ヒスタミン剤、降圧薬一覧など、おおよそのことは頭に入っている情報でも、きちんと整理・評価して提供することは重要であり、本来のDI活動ができるようになりました」(原田氏)。薬事審議会の資料作成のほか、多種多様な資料作成が可能になり、それを院内イントラネットで逐次配信することによりDI活動を充実できたことが大きな成果だと述べる。
錠剤鑑別にJUS D.I.をよく利用するというDI担当の調剤科主任 高谷紀子氏も、「以前は日本医薬品集で刻印をいちいち調べながら、定型用紙に手書きで鑑別報告書を作っていましたが、いまはJUS D.I.で簡単にチェックできますし、報告書をプリントアウトできるので、作業がとても楽になりました」と、日常的な業務の簡素化を指摘する。
「医薬品情報管理における業務効率の向上によって、今後も薬の有効性と安全性向上に寄与するDI活動を充実させるとともに、現在、十分とはいえない薬剤師の病棟業務にマンパワーをシフトしてチーム医療への貢献ができるようにすること」(原田氏)という最優先の課題克服への土台固めができたといえる。今後はJUS D.I.を有効活用することで、DI活動の活性化に貢献するに留まらず、病棟業務への薬剤師のリソース投入という環境整備の具体化の実現に向けて動き出す。(増田 克善=委嘱ライター)
※このコンテンツは、
日経メディカルオンライン「医療とIT」に掲載(
2008年12月16日)された記事
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