2018年6月の新病院移転に合わせて、新たな医薬品情報システムとして「JUS D.I.」を導入した東邦大学医療センター大橋病院。薬剤師だけでなく、医師や看護師、医事課の方々を取材し、病院全体の業務がどう変化したのかをJUS D.I.導入の事例として紹介する。
「優しい心、親切な心のこもった医療の実践に基づいて、人々の生命を尊重し、人間としての尊厳と権利を順守する」を基本理念に掲げる東邦大学医療センター大橋病院は、2018年6月20日に新病院として生まれ変わった。
「病診連携室」「ソーシャルワーカー室」「がん相談支援センター」「病床管理部門」を集約し、病院の顔として「患者サポートセンター」の運用を図っており、これまで以上に地域の医療機関・介護福祉機関・行政機関等と連携の充実・強化を図り、地域完結型医療を推進している。
同院では新病院への移転に合わせ、これまでの医薬品情報システムを一新し、効率的かつ使い勝手の良いシステムの導入が検討されはじめた。
薬剤部長補佐を務める小林加寿子氏は「電子カルテから医薬品情報を確認する際、当時のシステムでは採用薬か否かの区別ができませんでした。その上、閲覧できる情報が添付文書を要約したものだったため、信頼性に不安がありました。しかも表示できるのは医師のオーダー画面からに限定されていたので、利用者も限られていました」と、振り返る。
その後、改善を試みたものの、起動するまでに数分待たされる重いシステムであったことから、時間に追われる忙しい現場で即座に見ることができないという新たな問題が生じた。
薬剤部 部長補佐 小林 加寿子 氏
さらに薬剤部では、採用薬の情報を掲載した紙媒体の医薬品集を年1回作成して配布していたものの、様々なツールを駆使してもなお手作業ではタイムリーな更新ができないため、情報の新鮮さに欠けてしまうという課題があり、院内から強く改善の要望が上がっていたことも、抜本的解決が図れる新システム導入を望む動きに拍車をかけた。
新たな医薬品情報システムの検討にあたっては、薬剤部のなかにワーキングチームを結成。パンフレットなどによって数社のシステムを検討し、選定作業を行った。機能やスペックを比較・検討していくと、2社のシステムに絞り込まれたという。その2社に対してヒアリングを行い、細部について確認し、最終的に選ばれたのがJUS D.I.だった。
導入の決め手については「PMDAからだけでは入手できない重要情報が多く含まれ、それが毎日自動更新されること、次に、カスタマイズ可能な柔軟性があったこと」と小林氏は話す。
JUS D.I.は添付文書をはじめとする各種情報が毎日自動で更新されるので、常に最新の情報がストレスなく閲覧できる。添付文書内の情報は漏れなくデータベースに納められているほか、包装変更、回収、製造中止などPMDAではまだ扱われていない情報や、あるいは閲覧するのに手間がかかる情報、たとえば最適使用推進ガイドラインといった情報なども紐付けられており、それらも自動更新機能で常に最新情報が閲覧可能なため、便利なだけでなく安心して薬剤師としての業務ができるという。こうした情報は採用薬であれば製薬企業の担当者が持ってきてくれるものの、それ以外の医薬品については、今まではそのメーカーのウェブサイトで調べるのが一般的だった。製薬企業の担当者からの情報、書籍、ウェブサイトなど複数の情報源を常にチェックして回る負担、情報見落としの不安から解放される安心と安全。DI業務にJUS D.I.を活用することでもたらされるそれらのメリットはきわめて大きいという。
また、大橋病院ではJUS D.I.がインタビューフォーム等DI資料の活用においても重要な役割を果たしている。「薬剤部の中に医薬品情報室という部門があるのですが、新病院の開設にあたって医薬品情報室を薬剤部とは別の場所に設けることになりました。医薬品情報室は役割上、他職種との連携が重要となります。薬剤部の中に置くと他職種との連携がしづらいことが課題となっていましたので医薬品情報室を病棟と他の医療スタッフの近くに配置することになりました。しかし、そうなるとDI資料を管理・整理しているのは医薬品情報室のメンバーでしたので、今度は他の薬剤師と距離的に離れてしまい管理に不便さが生じてしまいます。JUS D.I.はWebサーバー上のシステムですからサーバーへのアクセスは物理的に離れていても複数の端末からでも管理が効率的に行えます。つまり、この新しいシステムのなかにインタビューフォームをはじめ各種資料が入っていたことで、その問題も解決できたのです」と小林氏は語る。
また、「他社のシステムはどれもシステムが提供する情報に限定され、ユーザーが独自にアイテムを追加することができませんでした。これに対してJUS D.I.はとても柔軟で、あらゆる形式のデータを無制限に追加することができますので、当院では院内製剤の医薬品情報を独自に追加するなど、実情に即した運用を行っており、大変効率的です」(小林氏)と、カスタマイズ性の高さを評価する。
■外来の診察時間短縮で生まれた副次効果
2018年6月の新病院のオープンと同時期にJUS D.I.は稼働を開始。電子カルテに記載された薬剤名をパソコンのマウスで右クリックすると、瞬時に添付文書をはじめとした医薬品情報が閲覧できるようになった。
JUS D.I.導入によって、医療の現場に余裕が生まれ患者とのコミュニケーションが向上した。
外科医師の・桐林孝治氏は、外来の診察室で患者に薬の説明をする際に、以前は主に院内で制作した医薬品集や市販の便覧などを使って調べていた。当時導入されていた医薬品情報システムは起動の遅さ、検索性の悪さなど使い勝手が悪く実用的ではなかったためだ。
外科医師 桐林 孝治 氏
「ただ、本や冊子を手でめくりながら調べるのは、煩わしいし、時間もかかってしまいます。それが今では電子カルテ上で右クリックするだけで、最新の医薬品情報が閲覧できます。表示画面もとても見やすいですね。他のシステムはテキストだけの見づらい画面がほとんどで、中身も要約、抜粋された二次加工情報ですから信憑性も低いわけです。添付文書の確認以外に診察時に役立っているのが薬の剤形やシートの色などもカラー写真で表示される点です。それを患者さんに一緒に見てもらいながら説明できるので便利ですね」と、単に診察時間の短縮だけでないメリットも感じているという。書籍等の情報では剤形があってもモノクロのイラストなどでわかりにくく、患者に服用中の医薬品を確認する際にも特定できなくて困ることがあった。包装も含めてカラー写真で明瞭に表示されるJUS D.I.なら患者にもわかりやすくコミュニケーションも取りやすいという。
なじみの少ない薬も探しやすく、薬を特定するまで患者を待たせる時間も短縮できたと感じている。「時間に余裕ができた分、患者さんを診察する際、次に何をしようかと考える余裕が生まれました。これまでだと薬を調べている間は患者さんとの会話も途切れてしまうし、時間にすれば30秒ぐらいかもしれませんが、話が途切れずスムーズに診察できることは患者さんの信頼感にとても大切だと思います」(桐林氏)
さらに、患者の持参薬も、これまではなかなか調べきれないことが多かったのだが、JUS D.I.の特長の一つである鑑別機能がその問題を解決した。「ふだん使い慣れていない薬について調べたり、確認のために検索することが多いが、瞬時に情報が出るので億劫がらずに確認できる」と桐林氏は評価する。
また、この病院の特徴として肺がん等の患者でも手術した場合は術後も主治医、担当部署が内科に変更されず、継続して外科が担当する。そのため外科医でも内科関連の医薬品を処方する機会が生じる。そうした場合に情報が多く、副作用、併用 禁忌などの最新情報についてもひと目で確認できるJUS D.I.は非常に信頼性が高く、安心して処方できるという。
JUS D.I.にはRMP閲覧など他にも多彩な機能があるのでまだまだ活用方法は見つかりそうだと期待を膨らませる。
■病棟看護師の医薬品情報活用をサポート
JUS D.I.は電子カルテ端末の同じ画面の中でストレスなく利用できるため、看護師の方々も特に医薬品情報のための別システムを利用しているという意識がなく、カルテの確認と同じ流れで医薬品の作用を確認しているという。思い込みによるミスやよく似た名称の医薬品との取り違えを避けるため、効能や作用機序などを調べたうえで患者に与薬するように心がけているという声が多く聞かれた。
ただ、JUS D.I.の導入が新病院の開設と時期が重なったために、説明会などを開催する余裕がなかったことから、JUS D.I.の利用方法やどのような機能があるかなどの情報が看護師全体に行き渡っていないのが現状のようだ。導入後時間がたっても日本ユースウェアシステムはトレーニング、アドバイスなどを継続して提供するので、今後はそのサービスを利用することにより、病棟看護の現場においても医薬品情報のさらなる活用が期待できそうだ。
■マスターメンテナンス作業の負担を軽減
東邦大学医療センター大橋病院の医療を診療報酬請求事務の立場から支えている同院医事課で、診療報酬算定用のデータベースのマスターメンテナンスを担当している春山氏。新規の採用薬があると、診療報酬算定上の規定で効能・効果の部分を確認する必要があることから、JUS D.I.を活用しているという。
JUS D.I.導入以前はPMDAで効能・効果を調べていたが、医事課にはインターネットに接続された端末がなかったことから、1カ月に一度のマスターメンテナンス作業では、ネット接続された端末があるところまで行く必要があったという。新規採用分の作成と採用から外れたものの廃止日・終了日を入力したり、化学療法の薬では、化学療法加算が発生するのでその情報を追加するなど多岐にわたる作業があるが、検索性に優れ、情報の整ったJUS D.I.の利用で負担は大幅に軽減されている。
JUS D.I.導入以前は、ネット検索以外ではやはり薬剤部から配布されていた院内医薬品集などを利用していたという。次回のために添付文書などのPDFをダウンロードして保存する工夫もしていたというが、多くのファイルから検索するのは煩雑極まりないという課題もあった。
「JUS D.I.なら毎日更新されているため、いつも最新の情報にアクセスできるので助かっています」と、春山氏は述べる。
■効率化で人員削減後も作業精度をキープ
春山氏が担当するマスターメンテナンス以外にも、レセプトチェックは、医事課全体で毎月1週間ほど要し、業務の中で大きな位置を占める。診療報酬算定上の規定で、万が一、投薬の内容が患者の症状や治療内容に対して不適切と判断されると、その分の請求が保険適用外として減額されることになる。この対応関係は自動化が困難な部分で、人間の目で最終的にチェックする必要がある。経営にも影響が大きく、病院事務の中でも非常に重要で専門性が求められる業務だ。レセプトチェックシステムも併用しているが、「当院の場合は紹介状を持ってこられる初診の患者さんが多いので、初めて処方する薬もあり、また初診の段階ではカルテ上の病名と処方された医薬品との間に齟齬が生じることがあるため、レセプトチェックシステムでエラーが出やすい傾向にあります。また、用法・用量が適正ではない恐れがある場合はエラーが出ます。レセプトチェックシステムでエラーが出る割合は1~2割程度で、そういったケースではJUS D. I.を使うことですぐに調べることができます」(春山氏)
JUS D.I.導入以前、PMDAにインターネットでアクセスして調べていた頃は、レセプトチェックの期間中はほぼ毎日1、2時間の残業は当たり前だったが、導入後は最終日だけ1、2時間ほど残業すれば済むようになったという。
「今では電子カルテ上から連携したJUS D.I.で検索できるようになり、とても効率が良くなりました。以前と比べると30分~1時間程度は短縮されたと思います」と、春山氏は話す。
JUS D.I.導入で業務効率化を図った医事課だが、昨年人員削減が行われ、8名だったスタッフが5名に減った。仕事量が同じまま人員が減れば一人の負担が大きくなるはずだが「スタッフが減ってもなんとか仕事を回せるのは、やっぱりこのシステムが導入されたおかげかもしれません」と、春山氏は笑顔を見せてくれた。
■院内医薬品集のコストを圧縮し情報共有を支援
効率化の面ではなんといっても、これまで紙媒体で制作していた院内医薬品集の印刷・製本が不要になったことだという。病院機能評価対策としてだけではなく、院内医薬品集を置くことは義務になっているが、紙媒体である必要はないことからJUS D.I.で代替できるのだ。
以前の環境では院内医薬品集の制作コストが年間100万円、従来の医薬品情報システムに年間50万円が必要で毎年150万円の経費負担が生じていたのだが、JUS D.I.ならランニングコストを大幅に抑えることができるため導入時の初期費用を回収する損益分岐点まで数年で達する計算が成り立つ。コストパフォーマンス的に大きく改善されただけではない。さらにはスタッフの負担、時間の削減という多大なメリットももたらした。
医薬品の製造中止や採用薬変更など実際にかなりの頻度で発生する。従前の環境の下、限られた予算内で最新化し続けることは大きな困難を伴っていた。以前は院内医薬品集の発行が年一回であったことから、発行時期以外で採用薬を変更する際にはその都度、新規採用薬のお知らせを院内全体に紙で配布し、それを各自で院内医薬品集の余白ページに切り貼りしてもらう形式を取っていたという。「回数の多さも影響してか実際には切り貼りしていた人はほとんどおらず、薬剤部以外では正確な採用薬については分からなくなっていた」と小林氏は実情を明かす。それがJUS D.I.導入以降は、院内全体で同じタイミングで正確な情報を共有できるようになった。
■DI業務の充実とサービス向上
患者向けサービスの充実にもJUS D.I.が貢献しているという。インスリンなど注意を要する処方の場合、理解の促進、注意喚起のために説明書を用意しているが、以前は院内専用の医薬品情報室ホームページに五十音順で掲載していたため、必要な時にホームページにアクセスして探すという手間が生じていた。現在はJUS D.I.の中で医薬品の画面に連携して患者向け説明書も閲覧できるようになったため、お待たせすることもなくスピーディで余裕のある対応が実現できている。
また、以前から同効薬の比較表を作成していたが、JUS D.I.の医薬品情報にリンクして使えるようにカスタマイズしたため大変効率よく使用できるようになった。
■多職種連携によるチーム医療推進に貢献
近年、多職種連携によるチーム医療が重要視されているが、薬剤師業務においても他部署との連携が重要になる中で、新病院では医薬品情報室を病棟や他の医療スタッフのそばに設置したことは先述したとおりだ。それによって、これまで以上に医師との連携が取りやすくなったと小林氏は指摘する。
「医師が書類提出のついでに訪問されることも多くなり、医薬品情報室で薬剤師と医師が相談することも増えました。言葉で説明するだけでは伝わりにくいことも、同じJUS D.I.の画面で添付文書などを見ながら相談したほうが、コミュニケーションを取りやすいですし、共通理解が深まっています」(小林氏)
■さらなる利便性の向上に向けて
負担が軽減されたことにより業務に余裕が生じ、かつては院内のホームページに掲載していた情報の、より積極的な活用にも乗り出している。現在では院内医薬品集に加え、医薬品についての注意喚起などを掲載した情報誌を定期的に作成し、冊子、メールなどで利用者、場面に合わせた情報発信が行えるようになった。JUS D.I.の機能の一つである「お知らせ掲示板」も利用し、タイムリーな情報発信を行っている。JUS D.I.の活用と積極的な情報発信の成果として、医師などからの薬剤部への問合せは大幅に減少している。
「JUS D.I.で業務が効率化されたことで、今後はそうした情報発信に力を入れていきたいですね。また情報の周知徹底についても、JUS D.I.の説明会を開くなどして対応していきたい」と小林氏は今後の抱負を語ってくれた。
また、JUS D.I.には閲覧ログの出力機能があるものの、現状では職種ごとのデータが取れていないため、ログ解析などは行っていないという。しかし、JUS D.I.の導入、管理、運用を主導してきた小林氏はさらなる活用を視野に入れ、「今回の取材にあたって、医師や看護師、医事課の方々からヒアリングさせていただいて、職種によって必要な情報や使い方が違うことを実感しました。そうしたログ解析などを通じて、JUS D.I.のユーザーインターフェースや提供する情報を職種ごとに変えたりすることも可能と聞いています。日本ユースウェアシステムさんは導入後もずっと丁寧なサポートがあり、いろいろと相談できるのでもっと工夫して活用していきたいと思います。そうなったら、さらに使い勝手が向上し、病院全体の業務効率や安全性が向上するものと期待しています」と締めくくってくれた。